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箱に詰め込まれてからどのくらい時間が経ったんだろうか
ここにいる全員は皆現実で幸福を夢見ることは諦めているし、同じように口を塞がれているから一文字ですら言葉を発することも無かった
ただあるのは馬の走る音と揺れる音、それから時折馬鹿にするように一人話し始めるしゃがれたダミ声の男
そういえば意識失う前に銃に撃たれたような気がしたけど、それらしい痛みは無いように感じる
一応商品であるから目立つ傷を売人がつけないように、麻酔銃かなんかを使用したのだろうか
まぁ、なんだっていいか
馬の足音が段々とゆっくりとなっていき、揺れがなくなった頃にしゃがれ声の男はこの荷台から降りた
目的地に着いたのだろう
ガタンと箱が傾いて、よく聞こえねぇが外にいる奴らが何か喋っているし、この荷台ごと運ぼうとしてんだなー、と何となくの予想がつく
ベラベラと喋っていた男の話しぶりから考えるに、どっかの建物をオークション会場として俺達の売買が開始されんだろうか
主人に買われたときの記憶なんて覚えてねぇから、実質商品側でいるのは初体験で気持ちの悪いくらいに心臓がバクバク鳴ってるし、視界が定まらなくなってきた。
ブワッと全身から溢れ出した嫌な汗のせいでえずく
その時舌に触れた口の拘束具は金属の味がして、昔に主人からスプーンを口の奥にツッコまれて隠れて食った残飯を嘔吐した記憶が蘇るもんだから、何故だか知らねぇが、泣きそうだ。
次に荷台の扉が開かれたのは薄暗い一面コンクリートの場所で、人間1人が入れそうな鉄の籠が、俺達を1人1人入れても余るくらいの量がそこにはあった
雑にそこへと順にぶち込まれ、鍵が閉まった後に真っ黒な布で籠全体を覆われる
すぐに何のアクションもねぇから、自分たちの番が来るまでここで待機って事だろうか
………そういえば、俺よりも先にエニスが連れて行かれてた
一体全体どういった価値観で主人となる立場の奴らは俺らを飼おうと思うのかがよく分かんねぇけど、エニスみてぇな奴は値が高くついたりするんだろうか
綺麗な顔ではあったし、小学生くらいだったし
「……………」
自分のことで精一杯だってのに、あのたったの瞬間で情が沸いちまったのかな
少し話して、名前を勝手につけられただけなのに
我ながらに単純で、馬鹿みてぇ
この苦しいことが無い時間だって、自分の番が来て飼い主が決まるまでのたった少しの短い瞬間で、これからの痛みを強めるだけなのに
ほんとに、俺は馬鹿だ
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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta
作成日時:2024年3月20日 2時