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名前を聞いた俺に、聞きたい?と更に訊ね返した娘

拘束から解放させて、名前を付けて……としっかりと立場というものができてしまったからか、随分と余裕そうな表情だ。

俺を人として認識してる、なんてのは前言撤回すべき発言かもしれないな、と一人で勝手に目の前の人間に怯えた。

「アル」
「んだよ……」
「なんでもないわよ」

再びクスクスと娘は笑い始めた

今までずっと無表情だったのは演技にしか過ぎなかったのだろうか

いや、そもそも関わってる時間が短すぎていたし会話なんて何は一つとして無くて、俺みたいな奴らが転がってる地下牢なんか見てもこんなふうに笑えるわけがないだろう。

もしかしたら、本当に愛らしい娘なのかもしれない

怯えと安心と不信感と信用と、相反する感情がこの短い時間の中で一気に溢れて心を乱している。

気持ち悪いとしか言いようのない心境を誤魔化すように、さっきからはぐらかし続ける娘の名前を再度聞いた

「なんでそんな名前を言うのをもったいぶるんだよ……、俺を名付けるときはは随分サラッと言ったくせによぉ」
「ちょっとだけ、あそびたくなったのよ」

ごめんなさい、と一つ置いて娘は言った

「私の名前はエニスよ」

改めて、と言葉にはしなかったが俺なんかと向き合って、目線を合わせるために娘──エニスはこちらを見上げた

親近感のあるうっすらと茶髪気味の黒い髪の毛先はくるんと巻かれていて、暗いヘーゼル色の瞳は大きい。

先程の笑いは何処へやら、とすっかりいつも通りの無表情だ

でも、長いこと見てきたのはその無機質な顔だからそっちの方が妙な恐怖感を感じなくて済む

感情が表に出てるほうが怖いときだって、たくさんあるから。

で、名前を勝手に付けてもらったり教えてもらったりしたけど

そもそもの、エニスがここに来た理由、が全くと言って良いほど解決されていない

エニスの所為で、色々と全部の方向性がズレていっていた

『しらないひとがいるのよ』
『お父さまが死んでたんだもの』

………よくよく考えればそんな状況なのに平然といられるエニスは大分おかしい。
子供故の無邪気さか無知だからか……、まぁ気にしないでおいた方が良いかもしれない。

「なぁ、エニス」
「さっき”じょうさん”ってよんでたのに」
「………エニス譲」
「なにかしら」
「最初、知らない人っつってたけどよぉ……」

その時、あまりにも軽々しい発砲音がして

暗くなった視界の最後に感じたのは、冷たい感触だった。

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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta  
作成日時:2024年3月20日 2時

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