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名前はあるのか、とその前に話していた会話との繋がりが見えない話題を出された

「あるのかしら、ないのかしら?」

グイグイと今にも破けそうな服の裾を引っ張るのはやめて欲しい。
教えて欲しいわ、と可愛くねだりもせずに淡々と聞いてくるこの娘は本当に俺に何をさせたいのだろうか

そもそもこいつの言った”知らない人”は何なのか。
こんな頭のネジが外れてる主人の娘よりも、優先すべき順序があるように思える

けど、よくよく考えてみれば生まれてこの方たった一つの国の名前すら知らないで生きた幼少期と、その頃に人間と認知されずに買われて飼われた俺だ。

何かあったとしても全てのことに対してどうしようにも何の手段もないのはあまりにも明白

だったら目の前の娘にひたすらに構って、運命がどうにかしてくれるのを待つのが、今生きる現世の正しい生き方のようにすら何故か思ってきてしまった。

もうまともに生きれるようにやり直しがきくような年齢でもないような気がするし、運命の流れで再び死んで今度こそ圧倒的普通の幸せな来世に期待するしかなくないだろうか?

「だまるって事はないのかしら?」

あれやこれやと考えている内に、娘に問われていたことを忘れてしまっていた。

今世の名前は一度たりとも呼ばれたことがないため恐らく無いのだろうが、前世の名前はある。

それを答えようか、そう思って口を開くのはちょっと思考してすぐに納得のいった顔をした娘の方が早かった。

「私があなたに名前をあげるわ」
「はぁ……」
「今からあなたは”アル”ね。」
「あぁ……どうも」

日本名じゃない
中身は一応前世の日本人だからすっごいこそばゆいというか、なんか中二病になったみたいでちょっと恥ずかしい

日本で16,7年くらい生きて、こっちでも10以上生きてるから俺は中身は立派な大人なんだぜ?
………多分

「アル」
「……なんだよ」

恥じらいが勝って顔にも声にも態度にすらそれが出てしまったのが自分でもよーく分かって恥ずかしい
ちょっとだけ時を巻き戻したくなった。

そんな俺を見て面白いのか何なのか、娘は笑う

クスクス、と片手を口元に持ってきて上品に笑っている姿は可愛らしい。
幼子が好きというわけではないが、年をとれば誰だって年下ほど可愛いものはないだろう

それが狂気の主人の娘だろうと、こいつは俺を人として認識しているんだし

「あー……と、譲さんの名前は?」

羞恥心を隠すように名を聞き返した。

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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta  
作成日時:2024年3月20日 2時

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