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見られてた、歯磨きされてるところを見られてた……
恥ずかしいったらありゃしねぇ。
いつまで笑ってんだこの娘は
「うふふ」
「んだよ……」
「いいえ?なんでもないわ」
クスクス笑いながら言ったって何の説得力もねぇんだよ……
「しかたがないから、私が食べさせてあげる。」
そう言って、エニスは手に取ったサンドイッチを俺の口元まで持ってきた
挟まれているのはツナとレタス
これもまた、懐かしい組み合わせだ
「ほら、お食べなさい」
一口、言われた通りにサンドイッチを頬張る
咀嚼すれば、ツナに染み込んだ独特なあの油の味とレタスのみずみずしさ、パンの柔らかい食感
味がする、懐かしい味
なのに初めての、今まで食べたことがない味
飲み込めば胃の中に落ちて、それでようやく空腹であることを理解したようだった
二口目も口に含めば、変わらず同じ味と食感
「ちゃんと両手で持つのよ。私のまねをしなさい」
幼げなその声に従って自分の両手で持てば、小さなその手は離れていく
三口目も美味しかったし、四口目も当然美味しかった
美味くて、優しくて、懐かしい
初めての感覚だ。
咀嚼して飲み込むのが、苦では無い
「あら、泣いてるのかしら?」
「………しょっぱい」
「まあ、しかたがないペットね。私がふいてあげるわ」
ポケットから取り出したのであろうハンカチで、目元を押される
人の涙なんてそんなの拭ったことなんて無いんだろう、下手クソで瞼越しに眼球をグリグリされるから痛かった
自分でも不思議だ
どうしてこんな、自分が嫌って憎んで恐怖していた主人であった娘に、こんなに絆されてんのか
フューラー様とエニス、それぞれとの出会い方なんて別に対して違いなんて無さそうなのに
寧ろ、こいつの方がフューラー様達よりも俺のことをペットと呼んでるくらいだから家畜か何かだと思ってそうなのに
もう分かんねぇよ、何で俺はこんな奴の前で泣いてんのかも、つーかなんで泣いてんのかも分かんねぇし
何でほとんど俺に何もしてねぇエニスのことはすんなりと信用してるっぽい感じの心境なのに
色々とやってくれてるフューラー様達を信じることを拒否してるような心境なのも
「もういっこ食べる?」
食べきった頃にそう言われ
差し出されたサンドイッチを受け取って、具もよく見ずにそのまま頬張れば卵とマヨネーズの味がした
分からないで混沌と化した脳内に、懐かしさが追加されて、更になんかよく分かんなくなって
涙が止まらなくなった
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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta
作成日時:2024年3月20日 2時