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お盆の上に群がるウジ虫とハエやらを観察して、気持ち悪くなってそっぽを向いたときに気づいた。
主人の娘がこっちに近づいて来ている
地下牢にいても外にいても、俺らみたいな存在に娘が関わるのは基本、害虫が住み着いた食事を運ぶときだけだ。
片付けには誰も来ない
本当に飢えていたり、気が狂ったやつしかいない地下では虫がいようがいまいがハイエナのように貪る奴らばっかだし、そもそも片付ける必要が無い
流石に、変に前世の常識が残っちまってる俺は必死に残飯を漁って喰らうしかなくて
そっちの方がまだ虫は少ないからマシだった
食事さえも主人は俺達を苦しませて遊びたいんだなって思う。
そんなことはどうでも良いんだ
さっきまで遠くの方にいた娘が今、目の前にいる。
「あのね」
死んだ瞳を埋め込んだ整った幼げな顔から想像した声よりは、随分と掠れていて”鈴が転がるような”なんていう比喩表現は使えそうにはない声だった。
「しらないひとたちがいるのよ」
お世辞にも綺麗じゃないその声で伝える言葉は明らかに俺に向けているし、しっかりと目もあっている。
「どうしてそんなことを譲さんは俺に言うんだ?」
「お父さまが死んでたんだもの」
「別にわざわざ外の俺じゃなくてもよかったろ」
「地下のかぎは、お父さまがいつもかくしてるのよ。どこにあるのか、分からないわ」
親が死んだってのに平気、というよりも何も理解していないようないつも通りの顔で話しているもんだから、怖い。
本当にここは全部が腐ってんだなぁ……って
「だから、今日はお外にいるあなたのところにきたのよ。」
「つっても、俺を制限する枷の鎖は壁に繋がれてんだ。何もできやしねぇよ」
「こわせないの?」
「壊せたらとっくに逃げてるっての」
「ざんねんだわ…」
「んだよ、だったら鍵を譲さんが持って来いよ」
「分からないわ、どこにあるかなんて」
「だったら探せよ!!」
つい苛立って声を荒げた
急な態度の変化に珍しく目の前の娘は驚いて目を見開いていたし、俺だって反抗に対する染みついた罰の記憶が脳から体中を巡って無意識のうちに雪の降り積もった地面に頭を付けて謝っていた。
「…っめんなさい、ごめんなさい…」
「そんなにごめんなさいしなくていいわよ。私は何もしてはいけないって、お父さまにいわれてるもの」
その言葉に顔をあげれば、その両手に顔を挟まれる
年相応の大きさのその手からの暖かさ。
人の体温なんて、何年ぶりだろうか
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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta
作成日時:2024年3月20日 2時