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左手の指も何本か内出血やら治っていない火傷やらがあったみてぇで
医者によって包帯が巻かれたり、小さめの固定具がされていた
糸目の男──オスマン様は、それらを刺激しないように優しく、まるで割れ物でも扱うかのように触れている
でも、その表情はピクリとも動かない完璧の笑顔
脳裏に浮かぶあの男が思い起こされて、消えてはくれなかった
地下牢で俺のすぐ隣にいた奴が連れて行かれるとき
どうやら二回目だったみてぇで、腕を掴まれたとき必死に抵抗してたんだ
助けることなんて、そんなの自分の保身のことで精一杯で、俺はただどうか自分が選ばれないように祈って、助けてくれと手を伸ばしてたそいつから他の奴らと同じように目を背けて
ただ耳には、呻き声だけが染みついている
「アル」
手をうつしていた視界を上げて、オスマン様の顔を見る
やはりその笑みが崩れてはおらず、完璧な仮面をつけているのか、と思っちまうほどだった
「ちょっと仕事だったり遅刻だったりで来とらんのもおるんやけど、料理が完成する前に軽くここに居るのを紹介しとくな?」
「はい…」
知ってるだろうけど、と言う前置きを置いて
お誕生日席にいてこっそりお菓子を食べようとして止められているフューラー様や、エニスの席にわざわざ近づいてまで再度構っているショッピ様
キッチンの方で料理の準備をしているのが御者をしていたひとらんらん様、勝手にお酒を飲み始めてるのが医者のしんぺい神様であること
それから鬱様はいつもは遅刻してるけど今日は珍しく時間前に来てることを最初に教えてくれた
フューラー様はやはりこの屋敷の主であることも、「一応」ということで教えてくれた
ピッ、とオスマン様の手袋が付け直された右手の指が差した方向を見れば
赤色のマフラーが印象的な人がお菓子を食べようとしたフューラー様を止めて、説教をしながら拳骨をしていた
「あれがトントン。副リーダー的立ち位置の人やね。ぶっちゃけグルッペンよりも頼りになるし、話しかけやすいと思うから、分からんことがあったらあの人に聞けば大体は大丈夫めう〜」
声が聞こえていたのかフューラー様の頭を拳で挟んでグリグリしているトントン様と目が合って、
わざわざ会釈をしてくれた
何もしないのは失礼だと思って、慌ててもっと深く会釈を仕返そうとしたら、思ったよりも勢いが出たから机に額をぶつそうになってビビった
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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta
作成日時:2024年3月20日 2時