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感覚神経が受け取ったのは痛みじゃなくて、ただ優しく触れられているだけの感覚
白んで狭まっていた視界が急に元通りになったもんだから、ちょっとだけ目がチカチカして痛かった
無意識のうちに止めていた息が口の中に入って
ヒュッと変な音を耳がとらえる
それは俺だけじゃなくて、目の前の医者もそうだったみてぇだけど
「ごめんな?怖かったな〜」
まるで子供をあやす母親の口調だ
確かに身体的年齢だったら俺の方が絶対年下だけど、精神年齢……はあんまり成長してねぇかもな
「ちょっと指に力入れるから、痛かったらちゃんと言ってや〜」
ぐっぐっ、と右腕の肩らへんから順に下の方へと移動させながら何回も何回も押して
小指を押されたときに何故か全身に痛みが駆けていくように感じた
「いっ……!」
「小指な?」
手の向きを何回も変えさせられて、医者はなるべく動かさないように診てくれていた
「んー……ヒビかな…。痣……いや、内出血か」
そう言った後に、なんかカルテみてぇなのに書き込んで
左腕、足、背中……と順に骨だか傷だかなんだかの検査をさせられた
手つきとかも優しかったし、度々そのふわふわした喋り方で声をかけてくるもんだから、正直めっちゃ安心しきってる自分がいる
単純すぎる自分が憎くて嫌いだ
でも、だからって恐怖がないわけじゃなくて、
頭の中を何度もよぎる記憶があって
その所為で何度も前兆なしにビビってるから医者が声をかけてくれて、でまたその記憶を思い出すって言う負の連鎖を繰り返してる
前の主人には定期的に来る友人みたいな男がいて
何人か預かりたいって言って、地下牢からそいつに連れてかれてた奴らがいた
第一印象はすごく柔らかで優しそうだったし、当時ガキだった俺はそいつの所だったら苦しくないかも、なんてありもしない夢を見てて
自分が選ばれなかったことに健気に悲しんでた
連れてかれた奴らが帰ってくるまでの数ヶ月、ずっと妬んでは苦しんで夢を見て、現実との違いに無意味に傷ついて
そうして帰ってきた奴らの姿を見て、もし自分が選ばれてたらって思ってゾッとした
皆一様に今までとはあり得ないような怯えの表情を滲ませいて、それは
主人に部屋に連れ込まれた女が、地下牢に帰ってきたときと同じ顔色
肩に手を置かれただけで異常なまでに震えて、耳障りな歯ぎしりを繰り返してたその姿は
今になっても残り続けてるトラウマの一つだ
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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta
作成日時:2024年3月20日 2時