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「とりあえずこいつ…アル、と言ったか?」
「は、はい」

低いその声による呼びかけによって意識が過去の記憶から引き戻された

危ねぇ危ねぇ、ちゃんと現実に意識を持ってないといつ主人を怒らせるか分かったもんじゃねぇ

「しんぺい神、アルの治療と風呂をひとまず任せた。俺は他の奴らに事情を説明しておく」
「了解〜。アル、おいで」

前にいたフューラー様が道をあけてくれて、しんぺい神、と呼ばれていた医者の前の丸椅子へと誘導される

治療と風呂って言ってたけど、消毒液をぶっかけて傷の除菌完了、お風呂は冷水でバシャァ、で終わりって感じか?

そりゃそうか、そんな優しいわけがねぇ
いや、そうして貰えるだけ充分優しいような気もする
あぁ、うん。前の主人よりは優しいな

前世の価値観が妙に残ってやがんのが本当に気持ち悪ぃな、さっさと忘れろよ
同等の年月をこっちでも過ごしてんのにさ

「……ペ神」
「なに〜?」
「…………変なことすんなよ」
「流石にしないよ」

ほら行った行った、と言いながら医者はあしらうように手を振って主人達を追いやった

ペ神、はあだ名だろうか

医者がハサミを向けてきてクソ程にビビったけど腕の拘束を切ってくれただけで、要らなくなったそれをポイと捨てていた

「どこか痛い所とか、じくじくする所はある?」
「……特に?」
「そっか」

それにしてもエニスは俺に”アル”って紛らわしい名前をつけたもんだよな

うん、こういうことでいいんだ考えることは
なにも苦しいことじゃなくたって…

「じゃぁ、ちょっと体を触るよ。痛かったらちゃんと言ってね」
「はぃ……」

あ、駄目だ
過去のことを思い出して、次に来る痛みを耐えないと

前の主人は腕もだけど指の骨とかを折ってきたから

正直手が伸びてきたら確実に殴られるか折られるかの二択しか無かったから、その

スローモーションのようにゆっくりになったこの視界でこっちにくる腕が怖いっつーか、視界の端っこから段々白み始めてきたというか

頭で何かを考えてる方が気休めでも痛みを忘れられるのに

真っ白になって恐怖しかなくて、少しでも苦しみが短くなるように体が許しを請おうとしてる

前の主人が伸ばしてきた手よりも、今視界にある手の方がずっと清潔で

だから、違うって分かってんだよ

でもどうせ同じ…か、そうだよな

植え付けられてきた恐怖が芽を出して、頭のてっぺんから足の先まで急激に伸びてくる

元々、壁にのびるツタみたいにあったのかもしれねぇけど

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作者名:ねっこんこん x他1人 | 作者ホームページ:http://nekokobuta  
作成日時:2024年3月20日 2時

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